プレスリリース

患者意識調査結果の分析に基づき、
「新型コロナウイルス治療薬」の公費負担延⾧を提言
5類移行で原則“患者負担”~経過措置として9月末までは公費負担
3万円の患者窓口負担で、服薬意向はわずか5%以下に低下

日時:2023年8月4日

社会保障を中心とした様々な分野での政策立案や提言を行う、新時代戦略研究所 (INES:Institute for New Era Strategy、代表:朝井淳太)は、同研究所が感染症対策に関わる医療従事者や医療経済学者らと発足した「新型コロナウイルス治療薬の社会的インパクト評価に関するプロジェクト」において、最近、約1万人を対象とした患者の薬剤費負担と服薬意向との関連性を評価する『コロナの治療費用に関するオンライン調査』を実施しました。

新型コロナウイルス治療薬は、現行の社会保険制度の下、患者負担が3割と想定した場合、外来診療における自己負担が経口薬以外の費用を含めて2万円から4万円程度となります。今回の調査結果によれば、薬剤費の患者窓口負担がなければ、90%以上の回答者が服薬意向(非常に服薬したい+服薬したい)を示したのと対照的に、1万円の患者負担になるとその割合は約10%に低下し、3万円では約5%以下にまで低下する可能性が明らかになりました。

患者窓口負担の増加で、公費負担下の現段階でさえ必ずしも十分とは言えないコロナウイルス治療薬処方による治療率がさらに低下することが懸念されます。治療率の更なる低下は、感染拡大時の重症化による要入院患者数増加や死亡者数増加に繋がる可能性が否定できず、さらには、再び医療体制の逼迫につながるリスクも想定されます。結果的に高齢者や基礎疾患があるハイリスクの方々を救えなくなる事態が危惧されます。

また今回の調査結果分析から導いた治療率低下の変化値を用いて、「基本再生産数」へのインパクトを考慮に入れて、(65歳以上の患者の)重症者数・死亡者数への影響を分析したところ、最大で約11倍に増加することが判明しました。

このように新型コロナウイルス感染症治療薬薬剤費の患者窓口負担への移行は、社会的な側面からも、大きな不利益をおよぼす可能性が考えられることが明らかとなりました。

当研究所ではこうした現況を鑑み、新型コロナウイルス感染症対策の財源確保を考慮しつつ、感染予防の徹底や後遺症軽減を図るために、政府が2023年9月末までの経過措置として定めた、この感染症の治療薬公費負担を免疫獲得率(抗体保有率)などが、海外諸国の水準に到達するまでは延長すべきであるとする提言書をまとめ、本日発表しました。

※詳細は下記の資料をご覧ください。

【プレスリリース】230804 INES コロナ治療薬公費負担延長提言プレスリリース
【資料】230804 INES コロナ治療薬公費負担延長提言プレスリリース_添付調査分析
【資料】230804 INES コロナ治療薬公費負担延長提言プレスリリース_添付提言書

◆「新型コロナウイルス治療薬の社会的インパクト評価に関するプロジェクト」について
新型コロナウイルス感染症が2類相当から5類に引き上げられたことによる感染拡大のリスクの検証と経済的影響に関する分析、検討を行うことに関するプロジェクト。コロナ治療薬に関する自己負担の影響とそれがもたらす感染拡大のリスク、経済的インパクトについて分析を行い提言として取りまとめを行う。

研究会メンバー(五十音順)
岩田  敏 熊本大学大学院生命科学研究部 客員教授
小黒 一正 法政大学経済学部 教授
佐藤 敏信 久留米大学 特命教授 医療政策担当
舘田 一博 東邦大学医学部微生物・感染症学講座 教授
松本 哲哉 国際医療福祉大学医学部感染症学講座 教授

協賛・賛同企業(五十音順)
MSD株式会社
塩野義製薬株式会社
ファイザー株式会社
一般社団法人 新時代戦略研究所(事務局)

同プロジェクトメンバーの一人である舘田 一博 東邦大学医学部微生物・感染症学講座教授は、感染症に関わる医療従事者として、新型コロナウイルス治療薬の患者窓口負担への移行に伴う治療率低下がもたらす感染拡大のリスクや後遺症への影響について、「お年寄りや基礎疾患を有する人を守るという視点で、必要な人に出来るだけ早く投薬が行われる仕組みを考えていくことが重要だ」と述べています。また同じくプロジェクトメンバーの小黒 一正 法政大学経済学部教授は、今回の調査結果から導かれた経済的なインパクトについて、「今回の試算は分析班の成果の一つだが、制度が及ぼす影響を含め、EBPMの観点からデータ等に基づいた議論を期待したい」と述べています。

◆ご参考:新型コロナウイルス感染症をめぐる最近の動向
 新型コロナウイルス感染症は5月の分類変更に伴い、医療体制と公費支援の見直しが行われ、外来医療の窓口支払い分は原則として自己負担となりました。ただし新型コロナウイルス感染症治療薬については、2023年9月末までの経過措置として公費負担が継続されることとなり、10月以降は今夏の感染状況を踏まえて検討される予定となっています。
 2023年5月10日に日本感染症学会・日本化学療法学会が発表した「新型コロナウイルス感染症治療薬の費用負担に関する要望書」で示されているように、新型コロナウイルス感染症治療薬等の自己負担を中心とする外来医療費が発生した場合、患者が自ら受診や治療を控えることで、重症化や入院のリスクが高まる可能性が懸念されます。
 さらに5類への分類変更に伴う、コロナウイルス感染症感染者の定点観測方法の変更により、正確な感染者数推移の把握は困難ですが、7月7日に開催された厚生労働省の第123回「新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード」では、

– 新規患者数は4月上旬以降緩やかな増加傾向となっており、5類移行後も7週連続で増加が継続している。
– 夏の間に一定の感染拡大が生じる可能性がある。また、感染拡大により医療提供体制への負荷を増大させる場合も考えられる。
 ことが報告されています。
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